環境生活学研究室では「脱炭素社会?循環型社会」、「自然共生社会」、「安全社会?コミュニティ」の三つのテーマを研究しています。
生活に欠かせない資源。人口増加や技術発展に伴い、生態系によってもたらされる資源の供給能力や浄化能力を超えた過剰利用や過度な環境負荷が問題視されています。資源利用の意思決定を行う際、個人の利益を追求して際限なく利用することで枯渇する現象をコモンズの悲劇と呼びます。コモンズの悲劇を乗り越えるためにはどうすべきなのか、共同で資源管理を実践するためにはどうすべきなのか、環境社会学、環境経済学、農業経済学、政治学、文化人類学をはじめ様々な学問領域の研究者がコモンズ研究を行っています。本研究室では、事例研究やメタ分析、フィールド実験を行い、自然資源管理を支える集合行為の実態解明および制度設計のデザインを追究します。
コモンズの悲劇が起きる理由を具体的に教えてください。
漁業を例に考えてみましょう。漁業で生計を立てる漁師が「協力する」(成魚のみ獲る)または「裏切る」(小魚も獲る)という選択肢があったとしよう。少しでも多くの利益を得るには、「裏切る」を選択した方が望ましいですよね。しかし、小魚を乱獲するとやがて魚個体数は減少してしまいます。全員が環境容量を超えた「裏切る」を選択した場合、全員が「協力する」を選択した場合よりも望ましくない結果になる状態を社会的ジレンマと言います。
自然資源はどのような特徴がありますか?
自然資源はそもそも不確実性が高く、外部の環境影響(地球温暖化や水質汚濁など)にも影響を受けやすいため、問題は複雑です。また、資源利用者は顔の見える構成員とは限らず、地域や対象とする資源によっては資源利用者の数が膨れ上がり、異なる文化や価値観が対立して協調行動をとることが難しいケースもみられます。資源はだれのものか、自然資源をめぐる利害関係者の意思決定を調べることも重要になります。
自然資源管理の分野でこれまでどのような研究をしてきましたか?
学生の時は、主に汽水湖漁業に注目して、アジア地域(日本、タイ、インドネシア、インド、スリランカ、ラオスなど)の漁業資源管理の実態をコミュニティレベルで調査してきました。頑健なコミュニティの漁業資源管理制度を構築するためには、メンバーシップや資源利用ルール、紛争仲裁、外部者との関係など、どのような工夫がなされてきたのか、各地域の事例研究で得た知見を整理して2010年に英文図書として出版しました。
最近は自然資源の過剰利用とともに、森林の手入れ不足などに代表される過少利用問題に着目して、漁業者が山に登り木を植えるといった漁民の森づくり活動について調べています。
また、自然環境の変化(気候変動や自然災害など)がコミュニティに与える影響の評価や環境教育を通じた自然資源管理の推進に関する研究なども行っています。前者では、獣害問題やコミュニティの自然災害に対する脆弱性評価などを調べています。後者では、特に湿地管理で重要とされる環境アウェアネス(CEPA:Communication, Capacity Building, Education, Participation, Awareness)に着目して湿地のCEPA促進に向けた環境教育プログラムの評価を行っています。CEPA活動については、研究のみならずNGOとして様々な普及啓発活動を実践しています(詳しくはラムサールセンターのホームページへ)。