論文を発表しました。

2017年に修士課程を修了した岡本彩希さんの研究を昨年末にScientific reportsに発表しました。

https://www.nature.com/articles/s41598-018-36418-9

この論文で、私達は神経変性疾患を引き起こす環境因子ではないかと疑われているアミノ酸 β -N-methylamino-L-alanine (BMAA)の新しい作用を報告しました。BMAAは、様々な環境で藍藻類により産生され、魚介類などに濃縮されることが知られています。BMAAは、もともとグアム島で多発した筋萎縮性側索硬化症-パーキンソン認知症複合という風土病の環境因子として提唱された物質で、サルに投与すると筋萎縮性側索硬化症様の病理変化を生じることが報告されています。しかし、BMAAがどのようなしくみで神経細胞に有害な作用をもたらすのかよくわかっていません。主要な説としては、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体に作用して神経細胞を過剰に興奮させるのではないかという興奮毒性説と、BMAAがポリペプチド鎖に取り込まれ、タンパク質の変性を引き起こすのではないかという変性たんぱく質説が提唱されています。

私達の研究室では、変性たんぱく質説を検証しようとして、マウスの線維芽細胞由来の細胞株(NIH3T3細胞)にBMAAを作用させてみました。変性たんぱく質ができると細胞内で増えてくる分子シャペロンの発現をみてみようと思ったのです。ところが、岡本さんが細胞を培養してみると、BMAAを含んだ培地ではなんだかNIH3T3細胞の増え方が悪いような気がするというのです。BMAAの毒性で細胞が死んでいるのかもしれないと思って、いろいろ調べてみたのですが、細胞が傷害されていることは確認できませんでした。そこで、細胞分裂を調べてみると、BMAAで処理した細胞では細胞周期の進行がG1→S期のところで止まってしまっていることがわかりました。今後は、どのようなしくみでBMAAが細胞周期を止めてしまっているのか調べ、そのしくみで神経細胞にはどのような悪影響が生じるのか検討しようと考えています。

カテゴリー: 未分類 パーマリンク