二〇二三年度(令和五年度)福岡女子大学第七十一回卒業証書?学位記及び大学院第三十回学位記授与式 式辞
本日ここに、福岡県 副知事 大曲 昭恵様、福岡県議会 副議長 佐々木 允様をはじめとするご来賓の方々のご臨席を得て、第七十一回卒業式と第三十回大学院修了式を迎えることができました。235名の学部卒業生、15名の大学院修了生、そして大学から得られる最高の学位?博士を取得される2名の皆さま、まことにおめでとうございます。ここに至るまでには、様々な困難があったことでしょう。教職員を代表して、お一人お一人に、その努力に負けない、お祝いを申し上げます。また、絶えることなくご支援をされ、今、別室でこの儀式をご覧のご家族の皆さまには、労いと感謝を捧げ、このおめでたい日をともに喜びたいと思います。
四年前、学部を卒業される皆さんは、予定されていた入学式がコロナ禍のために中止となり、翌年、新入生との合同入学式で、入学のお祝いを受けることになりました。その後も感染症が広がり続け、すべてに自粛が求められることになりました。楽しみにされていた国際学友寮での共同生活も十月まで延期になるなど、当然あってしかるべきものがなくなり、不自由な中で、大学生活を強いられることになりました。日常の談笑に相槌を打ってくれる相手も身近になく、サークル活動も中止になり、多くの授業を自宅から画面越しに受けることになりました。マスク、オンライン授業そしてSNSが、強いられた生活の象徴です。
それでも学生の皆さんと私たち教職員は、制限ある環境の中で、どのような教育研究活動、学生間交流ができるかを模索し、知恵を持ち寄りながら、学びと交流活動を行ってきたと信じます。福岡県は言うまでもなく、後援会や同窓会からも様々な支援の手を差し伸べていただきました。感謝です。今や卒業と修了のゴールに至って、この大きな変化、普通を奪われた事態を、本学で学んだ高度な知見と教養をもってむしろ前向きにとらえ、考え方やものの見方の転換を図る好機ととらえていただきたいと思います。こういう時にこそ創造性が発揮され、イノベーションが生まれるとも言われます。
各時代にはそれぞれに固有の時代思潮があり、それを端的に示すキーワードが生まれます。現代社会を象徴する一つのキーワードは、多様性(ダイバーシティ)という言葉でしょうか。生物多様性、文化的多様性、性別多様性、多様な人種、多様な働き方、多様な価値観などがその例です。コロナに「普通」を奪われた社会に、相応しい言葉とも言えます。「普通であること」、「みんなと同じであること」や「規範的であること」への疑問に始まり、型破りやエキセントリックであることへの傾斜、或いは個性的であることの重視へと価値観が移っています。メジャーなものとともに、マイナーなものをも等しく尊重する意識が高まりました。
その一方で、多様性の対極にある言葉や概念もまた時代のキーワードになっています。それは、「一つであること」(one/oneness)です。多様、多彩な状態、それ全体を一つとして包み込む、包摂するという世界観です。違いを認めつつも、一つであるという統一感を忘れない姿勢です。誕生日のために、「バースデイケーキをホールで購入した(つまり、丸ごと一つ買った)」と言ったりします。このwholeという言葉は、diversityと一対になって、私たちが、今、暮らしている社会の望ましい在り方を示しています。大事なことは、この単語wholeは、同時に「健康、健全、傷がない状態」を表すということです。差異を認め尊重して、なお全体を一つと考えてこそ、健全である、という考えが、英語という言語が誕生した古(いにしえ)の時代から存在するのです。
福岡県は、二年前、全国に先駆けて、ワンヘルス推進宣言を行いました。ワンヘルスとは、人と動物と環境の健全性は、相互に密接につながり、強く影響し合う一つのもの(oneness)である、という認識です。人間を含め、多様な動植物や自然は、全体として一つであるという考えを、福岡から実践しようという運動です。本学も他大学と共同で授業を始め、研究を推進します。コロナ禍で改めて広く認知され始めたこの世界観を、是非、共有していただきたいと思います。未来をなお信頼するに足るものとするためにも、大切な考え方です。
さて、本学は昨年四月、創立百周年を迎えました。百年の歴史に立つ、願ってもないめぐり合わせです。ここで、今一度本学の成り立ちを振りかえりたいと思います。私立大学には、それぞれ志高い創立者がいます。では、福女大の学祖は誰でしょうか。全国に稀を見る、福岡の女性婦人たちです。本学の『四十周年史』や『七十周年史』には、一九二三年の創立に至る前の市民運動が記されています。欧州への学術旅行から帰国した、ある男性が語る彼の地の女子教育事情を聴いた婦人たちは、志ある女子が高等教育を求めて関東や関西に行かざるを得ない福岡の事情を見るにつけ、この地にも女子高等教育機関が必要である、と知事に直訴したのです。時の知事は、その意を汲んで議会に諮るも否決されました。運動は高まり続け、数年の時を置いて、再度、知事は議会に諮ります。この度は、議会の承認を得て、晴れて本学の前身である福岡県立女子専門学校(女専)の設置が叶いました。公立として、全国初の女子高等教育機関の誕生です。本学で学んだ皆さんの中には、知らず知らずのうちに、こうした歴史が流れ込んでいるはずです。そして、今や、大学ランキングでは、全国の大学のなかで四十五位、七十二ある女子大にあっては、第二位の高い評価を得るまでになっています。これを誇りとしてください。
ご存じの通り、百周年を記念に「女性リーダーシップセンター」が設立されました。センターのコンセプトは、「ないものを描く、ないものは創る」です。学校の創設に奔走された福岡の婦人たちの心意気は、この見事な言葉に結晶しています。卒業生として、是非、「ないものは創る」の気概を心に持ち続けてください。そして、いつの日にか大学に戻り、リーダーシップセンターが開催する社会人対象の研修に参加してください。大学はいつまでも皆さんを支援いたします。
更に加えて、福女大のもう一つの「ひとつ(oneness)」に触れたいと思います。universityという言葉を分解すれば、uni=one「一つ」、vers(ity)=turned「~になった(転じた)」です。つまり、ユニバーシティとは、「学生、教員、職員、卒業生が一つになった、一つにまとまった集団?組織」という意味です。折々に、福女大をアカデミック職能集団のギルドである、と語ってきた私の意図はここにあります。ギルドのメンバーは、仲間と子弟の絆を大事にし、身に付けた技とリーダーシップを社会で発揮する義務を持ちます。本学には、筑紫海会(つくしみかい)という同窓会があり、実社会の行く先々で諸先輩であるギルド仲間が待ち受けてくれます。必要な時に仲間を頼り、同窓の結びつきを強くしながら、培った力を発揮していただきたいと思います。女子大であることの強みは、こういうところにあります。これからの社会、デジタルという実体のない仲立ちにより結ばれる我々ですが、仲間という同朋意識を強く持ち、相互に支え合い、導き合いながら活動を展開していただきたいと思います。
最後に、皆さんの出陣を祝して、鬨の声をあげたいと思います。日本語では、「エイ、エイ、オー」英語では「Hip, hip, hurrah」ですが、ここでは、F-W-Uと言いたいと思います。一緒に拳を上げ、声を出してください。
皆さんの前途を祝して、F-W-U
これを以って、お祝いの言葉、お祝いの声とさせていただきます。
二〇二四年三月十九日
公立大学法人福岡女子大学
理事長?学長 向井 剛