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- 2023.04.26
- 福岡女子大学 創立100周年記念式典 式辞
二〇二三年(令和五年)四月二十三日
福岡女子大学 創立100周年記念式典 式辞
本日、ここに、福岡県の大曲副知事、福岡県議会井上副議長をはじめ県議会議員の皆さま、文部科学省高等教育局古田大学教育?入試課長、公立大学協会の松尾会長、近隣大学の理事長?学長の皆さま、そして今回の100周年記念事業にあたりまして、多大なるご支援を頂きました県内外の企業の皆さま、連携協定を結ぶ自治体や企業の代表の皆さま等、多数のご来賓の方々のご臨席を賜りました。卒業生の筑紫海会の皆さま、名誉教授の皆さまとともに、福岡女子大学創立100周年の記念式典を開催できますことは、まことに大きな喜びであり、皆さまのご理解とご支援のもとに、この日を迎えることが出来ましたことに対し、深く感謝を申し上げます。
本学の始まりは女性市民の声でした。一九二三年(大正十二年)のことです。高等教育の機会を求める女性たちの声が一つになって、福岡県の教育行政を動かし、経済界の支援を得て、全国初の公立女子専門学校が設立されました。福女大の学祖は、女性市民であります。現在の県立美術館がある須崎公園に設置された学舎で、初代の小林学校長は、「リファインされた女性たれ!」と訓示して、開学を宣言しました。学校の教育目標には、「温良貞淑ナル婦人ヲ養成スルヲ以テ目的トス」が明記され、洗練された女性に相応しい教養と高度な知識、そして振る舞いの修得を目指しました。修身や心理学?論理学、家事?裁縫、音楽、体操等があり、外国語には英語が講じられ、「国語」の授業においては、習字や話し方とともに有職故実が扱われ、淑女に必要な社交の知識と礼儀作法の修得が課されています。その上で、文科と家政科にそれぞれ固有の専門科目がありました。
3年制の2つの科と1年制の研究科を持つ学校は、一九五〇年には4年制の大学に昇格、さらに大学院を併設した後、二〇一一年には、学部?学科の再編により、初年次全寮制、そして国際化と文理統合教育を重視する大学に生まれ変わりました。文と理の統合、或いは総合知なる考え方が叫ばれる昨今ですが、改革時に、既にこの事態を先取りする仕組みが整えられたことに対し、構想を立て推進された方々の先見の明に敬服いたします。
100年の歴史に立つ今、大きな教育目標は、地域社会や世界で活躍する「グローバルリーダーの育成」であります。そのために、様ざまな仕掛けと舞台が準備されています。国際文理学部の誕生から十二年、福女大の評価は跳躍し、「THE日本大学ランキング2023」では、日本の大学の中で総合45位、74校ある女子大学にあっては、お茶の水女子大学に次ぐ第2位を占めるほどに、高い評価を受けるに至りました。学生、教職員、卒業生の誇りであるとともに、地域社会の誇りにもしていただきたいと思います。小規模ながら、まさに一流と言えるアカデミック?ギルドの職能集団になりつつあります。
さらなる飛躍を期し、2つの教育?研究センターを設置いたしました。1つは、女性リーダーシップセンターです。民主主義の萌芽を見た大正時代、<(当時)ないもの、存在しなかったものを創りだした>女性のなかに、福女大のスピリットを見いだし、以来、基本理念を「次代の女性リーダーを育成」と定め、100周年を迎えるにあたり、予測のつかない社会にあって、<ないものを描き、創りだす>女性たち、という変革を導く人材像を掲げました。センターは、学生教育にとどまらず、リカレント教育の一環として、指導層を目指す企業人、社会人を招き入れ、ともに協働し、相互交流を図りながら、時代を切りひらく人材を育成し、リーダーシップ教育の拠点となることを目指しています。
いま1つは、国際フードスタディセンターです。伝統ある食?栄養の研究蓄積をもとに、社会に潜在する諸課題を、地域の方々と一緒になって解決を目指す、実践型の研究センターです。食と健康の関係性は、世界に普遍の問題です。その成果を、地域社会そして世界に発信するという志をも掲げています。2つのセンターは、大学と社会とをつなぐ窓口として、既に活動の歩みを始めています。一層のご協力とご参画をお願いする次第です。
今、社会に、そして大学教育に、第2のグーテンベルク革命と言われる波が押し寄せています。デジタル社会の到来です。例えば、「100周年の式辞、2500文字」などのキーワードをコンピューターの端末に与えれば、人工知能(AI)は、個性を欠くものの、論理的な構成で、無難な式辞を書いてくれます。また、翻訳のアプリは、いとも簡単に日本語を外国語に移し替えてくれます。こうした中で、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という新しい言葉と概念も生まれました。AIが私たち人類の知能を超え、人間の生活に大きな変化が起こる、というのです。
備えとして、より高度なITの知識と技術を身につけることは必須です。新しい時代を迎え撃つために、大学はその覚悟をもって授業の拡充を図り、加えて学科?コースの再編成の検討も始めています。ITによる機械的処理はロゴス(論理)の操作が得意でしょう。しかし、そこにパトス(感情?感性)を付与できるのは、私たち人間です。先の例でいえば、AIはエッセイを書くことが出来ます。それを鍛え直し、洗練させ、そして人間味のある私だけのエピソードを交え、個性ある文章に彫琢できるのは、人間です。かつて一九世紀初頭のヨーロッパで、理性偏重や合理主義などの時代思潮に対し、感受性や主観に重きをおくロマン主義が台頭した歴史を思い起こさねばなりません。本学は、パトスの復権を唱えてきました。感情?感性の世界を深め、豊かにすることの大事さを教育活動に反映させてきました。感情や感性の教育は、言葉では伝達できません。学生たちには、自ら感じ取る、或いは学びとる環境と機会を提供し、これからも一層豊かで多様な体験の機会を提供するつもりです。
最後になりますが、100周年に当たり多額のご寄付を頂きました皆さまに、厚くお礼を申し上げます。趣意書に述べましたとおり、2つのセンター設立と運営、本学の柱である国際交流活動の更なる充実と学生全員の留学支援、そしてキャンパスに音楽が鳴り響く福女大フィルハーモニーオーケストラの活動促進を中心に、使わせていただきます。また、本日ご臨席賜りました皆さまの、永年にわたる本学へのご支援に深く感謝しますとともに、女子高等教育機関である福岡女子大学の歩みに対して、今後とも変わらぬご理解とご指導をお願いいたしまして、式辞といたします。
令和五年四月二十三日
公立大学法人福岡女子大学
理事長?学長 向井 剛