二〇二二年度(令和四年度)福岡女子大学第七十三回入学式及び大学院第三十回入学式 式辞
ご来賓各位のご臨席を賜り、ここに福岡女子大学及び大学院入学式を挙行できますことを大変うれしく思います。
学びの場を求めて遥か海外から来られた留学生を含む学部新入生242名、大学院生17名、お一人お一人を心から歓迎いたします。残念なのは、ここに一堂が会することが出来ず、分散型の式典となったこと、そして国際プログラムであるWJCの受入れ学生を含め、海外からの留学生の一部が入国できていないことです。
パンデミックによる学校の突然の休校措置とそれに続く遠隔授業、二転三転する大学入試制度など、激しい環境の波にもまれながらも研鑽を積まれ、難しい入学試験をくぐり抜け、晴れて合格された皆さまに特別の祝意を、またお子様の志を支えてこられたご家族、そして支援を惜しまれなかった先生方には労いの言葉を表したいと思います。
私たち福岡女子大学はプライドをもって教育活動に当たっています。その「誇り」の始まりは建学の経緯にあります。私立大学には、学祖と呼ばれる学校の創始者がいます。慶應義塾の福沢諭吉、同志社の新島譲、女子大では津田塾の津田梅子、の如しです。翻って国立大学は、国の教育政策により、東京と奈良に女子の高等教育機関が設立されました。では、我が福女大は、といえば、草の根の市民運動から、つまり福岡の女性たちが高い教育とそれに相応しい職業の機会を求めて、立ち上がったところから誕生したのです。福岡県立女子専門学校です。大正12年が目撃する当時の女性リーダーの成果です。実に99年前の1923年のことです。この気概こそ忘れられることなく、本学の学校文化の中核を成し、すべての学生、教職員の拠りどころとなっています。入学を果たされた皆さんにも、この気概と誇りを持っていただくこと、これが大きな約束事です。
男女に等しく高等教育の機会が与えられ100年になろうとしています。しかし今なお、ジェンダー間に克服しなければならない格差があり、ある価値観が他を排する不寛容で、閉鎖的側面を持つ社会が残っているとも言われます。また、この国は、均質で協調ある社会を理想とし、同調を当然視するところがあります。それだけに異質なものを許容する懐が狭くなりがちです。福女大は、多様な価値観を持つ者が活躍できる社会をつくり上げることを目指しています。女子教育に特化することを良しとし、その象徴的な教育機関として本学は存立しているのです。役割とその期待には、大きなものがあります。
建学の気概と志しは言語化されて、「次代の女性リーダーを育成」という大学の基本理念になっています。皆さんに将来の夢や目標があるように、大学にも夢とねらいがあります。「次代の女性リーダー」― 皆さんに描いていただきたい目標の姿です。
そのための仕掛けと舞台が福女大にはあります。先ず、学部が一つであること。小さな大学だからではありません。複数の学部を一つに集約して、「国際文理学部」と名づけたことには、意図があるのです。いまや地域は世界と地続きで、予測が難しい社会です。文系の学問と理系の学問の間にある垣根を低くし、「総合的な知」を修得することを可能にし、その上で、グローバルなものの見方を与えんがためです。文理統合教育から学ぶグローバル教養を体験学習で裏うちし、海外に飛び立ち、様々な宗教、文化、言葉のなかに身を置くことを通して、次の時代、未知の世界に果敢に挑む才能が生まれ出ることを願っています。また、今年度より、副専攻として、新たにグローバルリーダー?プログラム(GLP)を設けました。本学の理念を真正面に受け止め、計画したプログラムです。詳細は皆さんに向けたオリエンテーションに譲りたいと思います。
ヨーロッパの大学の始まりは、ホール(Hall)と呼ばれる場所での共住(共に住むこと)による学びでした。これに倣い、本学も「国際学友寮なでしこ」を準備しています。寝食を共にしながら、国や地域を超えて、社会に目を向け、学問を論じ、将来を語るこの機会は、かけがえのないものとなるでしょう。初めて家庭から離れて経験する程よい孤独は、自らを反省的に見つめ直し、鍛える上で、願ってもない機会です。共に暮らす過程で、様々な対立や問題が生じるでしょう。それを克服する行為を通して、粘り強く対話する姿勢、言葉の持つ力への認識、共感する心、寛容な態度、責任を伴う判断力、視野の広がり、そして絆を会得することでしょう。上級生の多くは、寮生活を振り返り、最も有意義な時間であったと語っています。過ごし損ねることがないように、仲間との共同生活を始めてください。
言葉こそ、人を繋ぎ、深く考え、遠くを見通し、そして社会に変革を起こすための、大切な武器であるとの考えから、福女大ほど言語教育(とりわけ英語教育)に力を入れる大学は他にないでしょう。学術言語と生活言語とを問わず、クラスで覚えた言葉を、是非、寮での生活やキャンパスで使いこなし、身につける努力、習慣づけをしてください。繰り返しますが、言葉から、相互理解にとどまらず、文化的革新、イノベーションが生まれるのです。
国内外での体験学習の多様さも、また海外留学の機会の多さも、いずれの大学に勝るとも劣りません。知識は体験をともなってこそ、教養となり、知恵となり、意思決定を行う際の基盤となります。自ら進んで企画を立案し、仲間とともに協働しながら、知識を実践につなげてください。
私は、折々に、福女大をアカデミック職能集団であるギルドになぞらえています。西洋中世のギルドの会員には資格が必要であり、入会を認められた会員には特権が付与されました。ここにプライドが生まれます。そして何より大事なことは、そこで身につけた職能を、社会のために発揮する義務が生じます。これから4年にわたる、或いは大学院生におかれましては2年ないしは5年に及ぶ学修期間のなかで、他大学にはない、仕掛けと舞台をおもいっきり活用してください。身につけた職能を発揮する時や場所は、人により様々です。しかるべき時期に、しかるべき場所で、リーダーの役割を担うことができるよう、力を蓄えてください。
本学は、来年の2023年に創立100周年を迎えます。入学はたまたま2022年のことでありますが、皆さんは100年を擁す大学の歴史の中に立つことになります。筑紫海会(つくしみかい)という同窓会が、この歴史の証人であり、冒頭に述べた高等女子教育の先駆けの熱情を受け継ぎ、蓄えています。その一方で、女性の社会進出が期待される、大きな、大きな動きの中に立つことになります。この意味では「今、女性であることが幸いである。社会を変革し、社会を駆け上がっていけるのだから」とこの演壇で語ってくれたのは、アメリカにある本学の交流協定校スペルマン大学の学長キャンベル博士でした。博士の言葉‘It is a great time to be a woman, … Women, all over the world, are on the ascent.’は、女性womanと上昇ascentという単語を除けば、簡単で、短い、短音節の言葉でなりたっています。男性的な力強さを言葉に込めているようです。女性を前向きにし、その働きを鼓舞する名言です。
人は歴史的存在であることを意識すべし、とよく言われます。それは、あなたがものを見る、世界を見るその眼は、自分一人のものでなく、過去の人のものでもあり、あなたがよって立つ家族や友人、或いは帰属する社会、そして時代の文化的潮流から影響を受けたものでもあるからです。伝統ある本学で、歴史を感じながら福女大の色に染まり、批評眼を鍛え、未来を見通し、ジェンダーの如何にかかわらず、包容力ある豊かな社会を作り出す人材になっていただきたいと思います。
最後に、もう一度本学の基本理念である「次代の女性リーダーを育成」を皆さんと共有し、本学学生の特権を十分に活用しながら、豊かで刺激に富む学園生活を過ごされることを祈念して、式辞といたします。
二〇二二年四月二日
公立大学法人福岡女子大学
理事長?学長 向井 剛