令和三年度 福岡女子大学第七十一回?第七十二回合同入学式及び
大学院第二十八回?第二十九回合同入学式
式辞
ご来賓各位のご臨席を賜り、副学長、理事、顧問の方々とともに、一同が集い、ここに福岡女子大学及び大学院入学式を挙行できますことを大変うれしく思います。コロナはなお猛威をふるっています。しかし入学式という人生の大事な節目が、コロナの前に屈する事態は避けなければなりません。大学を出て、ここアイランドに大きな会場を求め、安全を期して、そして遅ればせながらも昨年四月に挙行できなかった現二年生の入学式をもあわせて行うことといたしました。
学びの場を求めて遥か海外から来られた留学生を含む学部新入生二百四十三名、大学院生二十三名、お一人お一人を心から歓迎いたします。
パンデミックによる学校の突然の休校措置と遠隔授業、二転三転する大学入試制度など、激しい波にもまれながらも研鑽を積まれ、晴れて合格された皆さまに特別の敬意と祝意を、またお子様の志を支えてこられたご家族、そして支援を惜しまれなかった先生方には労いの言葉を表したいと思います。
福岡女子大学にはプライドがあります。「誇り」の始まりは建学の経緯にあります。日本における女子高等教育機関として、東京と奈良にある先行の二大学は、国の政策により設立されたのに対し、福女大は草の根から、つまり福岡の女性たちが高い教育とそれに相応しい職業の機会を求めて、立ち上がったところから誕生しました。実に九十八年前の一九二三年のことです。この気概は忘れられることなく、本学の学校文化の中核を成し、すべての学生、教職員の拠りどころとなっています。
男女に等しく高等教育の機会が与えられ百年になろうとします。しかし今なお、ジェンダー間に克服しなければならない格差があり、男性中心のホモソーシャル社会が厳然として存在しているとの指摘があります。ある価値観が他を排する不寛容で、閉鎖的側面を持つ社会が残っているとも言われます。多様な価値観を持つ者が活躍できる社会を切り拓くことを目指し、その象徴的な教育機関として、女子教育に特化する本学が存立し、なお果たすその役割に大きいものがあります。
不思議なことです。時計の振り子のように、世の考えが変わります。細分化すること、専門化することは良いことだ、「分化は文化、つまり分化(specialization)は文化(culture)を高める」との考えのもとに、大学の教養共通教育が廃止され、文と理を分かち、文を軽んじ、理を重んじ、そして専門教育を急ぐ傾向が続きました。そして今、振り切れた振り子は、また揺り戻し、文への傾斜、文と理の融合、教養教育の充実が叫ばれ始めました。
本学は、二〇一一年、他大学に先駆けて、大学の改組を行いました。これまであった二学部(文学部と人間環境学部)を一つに統合し、〈文理統合〉と〈グローバル教養〉の理念のもと、〈国際学友寮での共生〉、〈言語教育〉、〈体験学習〉、〈海外留学〉に力点を置く国際文理学部を創設いたしました。教育と研究に意欲旺盛で、新学部の名に相応しい、学生中心のアカデミック?コミュニティを構成し、今日に至っています。その成果は、「2020年及び2021年版タイムズ高等教育世界大学ランキング日本版(THE)」において、日本の全女子大学中、第二位という評価に表れました。目指すは、さらにその上です。
冒頭で述べた福女大の誇りは言語化されて、「次代の女性リーダーを育成」という大学の基本理念になっています。いまや地域は世界と地続きです。文理統合教育から学ぶグローバル教養を体験学習で裏うちし、海外に飛び立ち、様々な宗教、文化、言葉のなかに身を置くことを通して、次の時代、未知の世界に果敢に挑む才能が生まれ出ることを願っています。そのための仕掛けと舞台が福女大にあります。
ヨーロッパの大学の始まりは、ホール(Hall)と呼ばれる場所での共住(共に住むこと)による学びでした。これに倣い、本学も「国際学友寮なでしこ」を準備しました。寝食を共にしながら、国や地域を超えて、社会に目を向け、学問を論じ、将来を語るこの機会は、かけがえのないものとなるでしょう。共に暮らす過程で、様々な対立や問題が生じるかもしれません。それを克服する行為を通して、粘り強い姿勢、言葉の持つ力への認識、共感する心、寛容な態度、責任ある判断力、視野の広がり、そして絆を会得することでしょう。
言葉の教育も充実しています。学術言語と生活言語とを問わず、クラスで覚えた言葉を、是非、寮での生活やキャンパスで使いこなし、身につける努力、習慣づけをしてください。言葉から、文化的革新、イノベーションが生まれるのです。
国内外での体験学習の多様さも、また海外留学の機会の多さも、いずれの大学に勝るとも劣りません。知識は体験をともなってこそ、教養となり、知恵となり、意思決定を行う際の基盤となります。自ら進んで企画を立案し、仲間とともに協働しながら、知識を実践につなげてください。
入学を果たされた皆さまには、こうした舞台とそれを活用する特権が待っています。それを自ら進んで享受し、活用するか否かが、将来を左右することになるでしょう。多少とも時代錯誤の感がありそうですが、私は、福女大をアカデミック職能集団であるギルドと考えています。西洋中世のギルドの会員には資格が必要であり、入会を認められた会員には特権が付与されました。ここにプライドが生まれます。そして何より大事なことは、そこで身につけた職能を、社会のために発揮する義務が生じます。福女大をギルドになぞらえた私の真意をご理解いただけたでしょうか。これから四年にわたる、或いは大学院生におかれましては二年ないしは五年に及ぶ学修期間のなかで身につける職能を、発揮する時や場所は、人により様々でしょう。しかるべき時期に、しかるべき場所で、リーダーの役割を担うことができるよう、力を蓄えてください。私たちは支援する体制を敷いています。
人の人生は、謙虚にも、滴(しずく)に喩えられることがあります。ここに入学を果たされた皆さまは、一滴のしずくであろうとも、流れ込むのは脈々と水をたたえた百年の歴史を持つ大河であります。それを誇りとし、緩やかに、たゆたいながら、楽しく、そして意義ある学園生活をお過ごしください。また、大学の校歌には、自身を水滴ならぬ旅人になぞらえる一節があります。とりわけ大学院生にとって、相応しい喩えです。
引用しましょう。
「瞳も清く さわやかに
学びの林 分け入りて
真理もとめん 旅人われら」
長く歌い継がれている、福女大生の心意気です。
何ごとであれ、自身の振舞いを具象化して、何かに事寄せ、イメージを描いて過ごすことが大切です。ことば?イメージ?具象化は、現実の或いは未来の自分を形づくる作用をもつのです。
最後に、今一度、本学の基本理念である「次代の女性リーダーを育成」を皆さんと共有し、待ち受ける舞台を十分に活用しながら、豊かで実りある学園生活となることを祈念して、式辞といたします。
令和三年四月三日
公立大学法人福岡女子大学
理事長?学長 向井 剛