本日、ここに集われている平成二五年度学部卒業生および大学院修了生の皆さん、御卒業おめでとうございます。また、公務ご多用にもかかわらず学部卒業式?大学院修了式にご臨席賜りました福岡県副知事 海老井悦子様、県議会議長 松尾統章様、県議会文教委員会委員長 津田 公治様を始め御来賓の方々に、福岡女子大学を代表して厚く御礼申し上げます。福岡女子大学で教育を受け、研究やゼミを通して自己啓発され、福岡女子大学の学部卒業生あるいは大学院修了生としての誇りを持って、晴れて社会へ巣立たれる皆さん、さらに大学院修士?博士課程に進学される皆さんを前にして、この晴れがましい式場に漂う希望?満足感?誇りという皆さんの熱気を、今私自身、直に感じています。本日の卒業式?修了式は、皆さんが福岡女子大学で教育を受けることあるいは、研究することが終わるという物理的節目でありますが、自分自身の行動に責任を持つべき社会への輝かしい門出も意味しています。
皆さんの記憶にまだ鮮明に残っているできごとに、ソチオリンピック冬季競技大会があるでしょう。二月六日から一八日間開催された多くの競技の結果は、皆さんが良く知っておられる通りです。メダルの獲得数を各国対抗制で比較するのも良いのですが、全ての選手が、人間が耐えられる限度を少しでも越えて長い間練習した結果ですから、その結果の良し悪しに関わらず、そこに感動的ドラマが生まれるのです。私は多くの日本選手の中で浅田真央さんの行動に心を打たれました。多分皆さんも、彼女の卓越したプロとしての精神力に対して、私と感動を共有できるものと信じています。勿論、浅田さんはプロ選手ではありませんが、精神力の強さはプロ選手にも勝るとも劣らないと、私は感じていました。フィギュアスケート女子SPは、本人も含めて誰も信じられない結果でした。その一日後に行われたフリースタイルで浅田さんは、多くの人に今まで経験したことのない感動を与えました。勿論、今回のオリンピックが彼女の選手生活で最後のオリンピックであるかもしれません。私は、フリースタイルを滑り終わってからの彼女の言葉が忘れられません。「山あり谷あり」を表現するため思いを込め、持っている力を出し尽くしたということでした。滑り終わった後の彼女の涙はやり遂げたという感動の涙で、さわやかなものでした。勿論、浅田さんは競技の全てに成功しないことがあることを知っていましたし、完全な演技ではなかったことも心で受け止めていたのでしょう。浅田さんは「有言実行」の人と言われています。彼女の弁によると、言ったからには全部やらなくてはという気持ち、即ち、言ったからには絶対やらなくてはといつも心に誓っていたと言っています。ショートプログラムとフリーのたった一日で彼女に何があったのでしょうか。私は2つのことが彼女をこれほどまでに演技に変化させる要因となったのではと信じています。一つめは、今回が最後のオリンピックでの演技かもしれないという最後の頑張りがあったことは想像できます。二つめは「プロとして決して言い訳をしない、全て原点に返って考えてみる」ことだろうと思います。プロ、アマの違いは「プロは、言い訳をしない」と「人を楽しませる」ことです。浅田さんのSP演技が終わってからのツイッターには、浅田さんに対する各国選手仲間の激励等、多くの書き込みがあり、これは過去のスポーツ大会では無かった現象でした。彼女が常日頃から各国選手と心と心を通わせ、フィギュアスケート界のリーダーとしての心遣いの賜物と私は信じています。社会にこれから出られる皆さんにもこの様な心遣いと気配りをお願いしたいと思います。浅田さんは長い間、日本のフィギュアスケート界を背負って立たないといけないというリーダーの心を持つことを強いられていましたし、そのことが、彼女に徒にプレッシャーを掛けていたのではと思います。
「リーダーになること」と「リーダーであること」は行動としては連続していますが、異なった意識を持って実行するものです。今ここで皆さんに求められていることは「リーダーであること」よりむしろ「リーダーになること」です。「リーダーであること」は、いくつかの行動規範を守り実行力?統率力を持つことが不可欠です。例えば、「正しいと思うことをすぐに行い、結果に対して責任を取る」、「決断したら即実行する」、「批判に挫けないで仕事をする」、「首をかけて退路を断つ決意」など、リーダーとしての心構えが多くあります。皆さんに求められている「リーダーになること」を実現するためには、そのための学習、経験、訓練も必要です。「チャレンジすること」、「考えた後に行動するときには積極的、建設的であること」、「何事にも独自の考えを持ち、独創性?創造性を兼ね備えている」などです。
これまでの人生で皆さんは多くの夢を見、それを人生の目標?目的として実現してきたことと思います。これから皆さんは、社会人として人生の目標?目的を持ち、それに向かって努力することが夢の実現となり、その人の人生観あるいは人間観を形成していくことになります。学生時代は夢としての目標に向かって無我夢中に突っ走れば良かったのです。社会人となる今、目標?目的と共に、崇高な意識と貪欲な行動なしには、夢は実現しません。また、目標や夢は、現在の自分の実力で実現可能かな、と少々不安になるくらいの高いレベルに設定してください。目標を高くし、それに向かって努力しない人、リスクの伴わない人生では、満足感や達成感は味わえません。「人並みの努力は人並みに終わる」ということを理解してほしいのです。人は是非そうありたいと願っていれば必ずその目標や夢を実現できるものです。
文学部と人間環境学部の卒業式は今年が最後です。輝かしい伝統があり、社会で活躍しておられる多くの優秀な先輩を輩出した二学部のアンカーとして皆さんは社会に旅立たれるのです。福岡女子大学の建学の精神、教育の理念や伝統は、新生国際文理学部に引き継がれます。福岡女子大学で学び身に付けた能力や経験、さらに大学の輝かしい伝統を生かし、皆さんの後に続く後輩達への良き道しるべとなる様に活躍してください。そのためには心身共に健康であることが不可欠です。他人の痛みの分かる心を備えた大人として活躍されることを願って、式辞といたします。
「リーダーとしての夢の実現に」